旅の歯車


092 : 浮島

 幾月かの放浪の後、少年は大きな湖の前に立っていた。腰には若干短いながらも一太刀を帯び、幼いころに慣れ親しんだ部族の羽織を身につけている。少し前に立ち寄った際、歓迎の証しとして贈られたものだ。既に随分汚れはしていたが、丈夫な糸で織られた布地は、今でも少年の身を守っていた。
「前に来た時は破壊者に連れられてだったけど、探せば案外見つかるものだね」
 幾らか、掠れたように低くなった声が言う。
――多分、すっかり捜し物に慣れてしまったんですね。
 「確かに」と少年は頷いて、湖の上、霞むほどの遠くに浮いた何かを見据えた。
 それは大きな大きな、海のような湖に浮かぶ、小さな島だった。
――破壊者は、
 赤黒い鳥が言った。
――もう、世界の心のもとへ向かっているのでしょうか。
 少年は島から目を離さずに、答える。
「恐らく、僕らは針のかけらをすべて集め終えた。向かうとすれば、ここしかないさ」
 少年は、そっと島を呼んだ。
 最後の道が、その時拓けた。

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