旅の歯車


064 : 遺跡

 少年が荷馬車を降りたのは、ある遺跡近くでのことだった。
 もはや陽はあらかた落ち、遠い地平線でうっすらと大地を赤く染めている。少年は荷馬車の主へ丁寧に礼を述べると、話に聞いた遺跡の方へとゆっくりとしたペースで歩き始めた。
 荷馬車の主の言によると、この遺跡が出来たのは何千年も昔――いや、遺跡が出来たというのはおかしいか。当時はここも、人の住む町だったのだろうから――のことで、なかなか高度な文明が発展していたのだという。それが消滅したのは、一説には自然災害とも悪疫の伝染だとも聞くが……
「だけど……この遺跡は、過去の文化の物じゃないな……」
 少年が呟くと、先に行って町を一回りしていたヒバリが問うた。
「ここには一体何があるんです?」
「わからない。だけど針が、この遺跡へ行けと叫ぶんだ」
 それから少年とヒバリはしばし遺跡を探索して、遺跡に針のかけらがあるわけではない事、過去の遺物がない事を確認した。と、ヒバリが不意に鳴き始める。
「ねえ、この扉、不思議な色をしていません?」
 その扉は、鈍色に輝いていた。

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