旅の歯車


063 : 荷馬車

 ガタガタと、不規則な音を立てて荷馬車の車体が揺れる。少し大きめの石でも踏んだのだろう、一度大きな音を立てて中の荷が崩れた。
「おっと! すまねえ。兄ちゃん大丈夫かい?」
 上から降ってきた本にたたき起こされた少年が頭を振ると、今度はフライパンがスライングする。コーンと小気味のいい音がした。
「すまねえなぁ、整理なんて滅多にしねえもんだから」
「いいんです。無理言って乗せてもらってる立場なんだし」
 少年が笑うと御者席の男が笑った。
「いいって事よ。どうせ通り道だ。それにしても兄ちゃん、何だってまた、あんなところへ行こうってんだい?」
 少年は苦笑でそれに答えると、崩れた荷を積み直し始めた。肘が一度棚に当たり、そこから一つ、箱が下へ落ちる。
 箱から古びたメロディーがこぼれ始めた。どうやらオルゴールであるらしい。
「いい曲ですね」
「ああ。娘への土産でね。商売柄滅多に会えないもんだから、たまにはそんなのもいいかと思ってな」
 静かな森を進む荷馬車の中から、澄んだ音が流れ出た。

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