049 : 戦装束
妖精達が“呼んだ”ものは、白銀に光る一つの腕輪だった。それは淡い光を発しながら音もなく降ってきて、少年の掌に収まった。
「……これは?」
「それが、あなたの『先生』に預かったものよ」
「あの人は凄いわ。一人で世界の理に抗おうとした」
「そしてあなたにそれを託したの。その腕輪はあなたの望むようになる。望んだように変わっていく。その腕輪はあなたの物よ。あなただけの物なの」
少年は混乱して、視線をその腕輪から妖精達の方へと向けた。
「先生は……先生は一体何をしようっていうんだ?
僕に何をさせようとしているんだ?
ねえ、君たちは知っているの?」
聞いて妖精達は顔を見合わせると、困ったように首を傾げる。
「私達、言えないわ」
「どうして」
「だって」
「だって、あなたが答えを望んでないもの」
少年ははじかれたように、胸の鼓動が高鳴るのを感じた。
「僕が……答えを望んでいない?」
「だけど答は見つかるわ、時計の守り人さん。だから今は進んだらいいの」
「今まで通りに時計の針を捜すといいわ」
「だから今は、自分を信じて」
正直、少年は今にでも泣き出したい心境にあった。全く訳が分からない。先代が何かを為すためにこの腕輪を作り、自分に託したという。しかし一体、何をするために?
何故先代は、自分でそれを為さなかったのだろう。
少年は腕輪を握りしめ、立ち竦んだ。
ちょうどその時だ。一人の妖精が金切り声を上げて遠くから飛んでくるのを見て、少年は目を瞬かせる。
「大変、大変だよ!
塔の守り人様が……塔の守り人様が!」
少年は瞬時に嫌な予感を感じとって、その妖精の手を取ると、落ち着いた声で話しかけた。この胸騒ぎを、以前にも感じたことがある。
「落ち着いて、ゆっくり話して。塔の守り人が一体どうしたの?」
妖精は潤んだ瞳を少年に向けると、突然わっと泣き出した。
「わからないの、突然、真っ黒な剣を持った男が塔に入ってきて、塔の守り人様を……一瞬で消してしまったの!
どこにもいないの、もう、この世界のどこにもいなくなってしまったのよ!」
聞いた、他の妖精達もとたんにざわめき始めた。皆一様におろおろとして、為す術もないままお互いの顔を見合わせる。
少年はその話を聞いて、思わず自分の剣に手を触れた。
真っ黒な剣。塔の守り人を消した男。
塔の中で脳裏に蘇ったのと同じ、聖杯の割れる音が再び頭に響いた。
(あの時の男が、すぐそばにいる……!)
――おまえが針のかけらを探す限り、きっと何度でも俺達は顔を合わせる――
「……お願いだ、今すぐ僕を、そいつのところへ連れて行ってくれ!
ここの出口を教えてくれるだけでもいい。頼む、僕はあいつに会わなきゃならないんだ!」