旅の歯車


046 : 足跡

 足跡を残そう。
 ここにも、そこにも。僕がこうしてこの道を通った跡を残そう。僕がこうして生きていた証を残そう。
 それもすべて、無駄になってしまうのかもしれないけれど。
 
 少年は再び、詩人やヒバリと一緒に海賊の島を歩いていた。
「それがさ、ホントに不思議な夢だったんだ。俺の周りに妖精みたいなのが集まってきて、例の歌を歌ってくれって言うんだよ」
 少々興奮気味に、詩人がその夢の話を細かく語る。少年は笑って答えた。
「妖精も、君の歌を認めたってことさ」
「……なら、ちょっと嬉しいけど。それより不思議だな。瓦礫に押しつぶされたと思ったのに、気づいたら洞窟の入り口で眠ってたなんて。……もしかして、扉の向こうへ入ったのも夢だったのか? なあ、どうだった?」
 少年はそれには答えず笑っただけで、腰に帯びた剣に触れた。
 あの時計は、一番古い文化から遺っていた物だという。ならばこの針は、一体いくつの文化を見てきたのだろう。一体何度、変化を見たのだろうか。
 
 『世界の心』は変化を好まない。だから自らが変化をする前に、その文化を消してしまう。
 世界の変化を食い止めること、今ある文化を大切にすること、どちらが大切なのか、どちらが軽視されるべきなのか、今はまだわからない。けれどあの洞窟の貴婦人は、確かにこう言っていた。「一度文化の変化を見てみれば、きっと私の言ったことがわかる」と。
 いずれ理解できる日が来るのだろうか。
 どうすることが正しいのか、どうすることが、間違いなのか。

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