旅の歯車


040 : 指輪

 少年が目を覚ますと、なにやら頬の辺りがむずむずとした。手で頬の辺りを払うと、それが少年の上へ降り積もった、白い花の仕業であることがわかる。
 少年の頭上に枝葉を広げる大きな樹。確か昨日は枝がしなりそうなほどの花を咲かせていたものだったが、どうやらその全てが、昨晩のうちに落ちてしまったようだ。自然の悪戯か、何にしろ、これではまるで棺に納められた死体のようだと苦笑して、少年は体を起こし、花を払った。
 ここまで大きな花びらはなかったけれど、少年の故郷にも、よく白い花が咲いていた。少年は慣れた手つきで草を編み、花をつけた指輪を作ると、それをそっと木の枝へとかけた。
 意味のないことだとはわかっていたけれど、次に見事な大輪を咲かせるまで、わずかながらの飾りにはなるだろうと思ったのだ。

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