旅の歯車


039 : 海賊の島

 島の入り江にはこれと言って特別なものは何もない。少年は今、道なき道を草をかき分け進んでいた。
 船の船長とは一週間後に先ほどの入り江で落ち合うことを約束し、つい今し方別れたところである。一週間は、長いようで短い。なるべく手短に用件を済ませて、早いうちに入り江に帰ろう。もしもそこで置いてけぼりを食らったら、次に冒険者が来るところを上手く捕まえるか、あるいは今既に島にいる冒険者に便乗しなくてはならなくなってしまう。
 森を進んで少ししたところで、少年は何かに躓いた。反射的に下を見下ろすと、それが人骨であることはすぐに知れた。……草や葉に覆われているから、それ以上のことは拾い上げてみないとわからない。
 とりあえず最近ここで朽ちた者ではないだろう。少年は短く黙祷を捧げると、そのまま同じ速度で歩き続けた。
 じきに山が見えてきた。島の大きさにふさわしい、小柄な山である。
(ここでは特に目指すものもないし、とりあえずはあの山を目指してみようか)
 目的がなければ、適当に作ればいいのだ。そんなことを昔、師に教わったことがある。
 捜し物ならもう慣れっこだ。たまにはこうして宝探しに興じるのも、面白いかも知れない。少年は年相応の笑みを、その顔に浮かべていた。

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