033 : 牢の囚人
時は、近い。
彼は声をたてて笑った。笑うより他になかったし、事実、何もかもが可笑しくて仕方がなかったのだ。
「ついに、この時が来た」
いつの間にやら、事はこれほどまでに進んでしまった。このまま行けば世界が変わるまでに、そう時間はかからないだろう。
一つの物が壊れて新しいものになるとき、そこにはかならず変化が生じる。そう、変化だ。それがこの先に起こる大きな事象の、本当の名前。
彼は再び笑った。
牢のなかではいやに音が響く。聞こえる笑い声は全て自分一人のものなのに、あちこちで誰かが笑っているかのように、音が反射するのだ。
気味が悪い。鳥肌が立つ。それでも彼は、笑っていた。
「さあ、急げ、時計の守り人。残された時間は少ないぞ」
時計の守り人とは臆病なものだ。自分がそうだったのだからよくわかる。臆病で、変化を好まない。そういうやつが選ばれる。
「先にあるのは明らかな変化だ。さあ急げ。変化が嫌なのなら。この世界を保ちたいのなら。しかしその為には、お前自身が変化せざるをえないだろう。二つに一つさ。――俺に出来なかったことが、さて、お前に出来るかな?」
行く先を知らずに奔走する、あいつの姿が目に浮かぶようだ。さあ急げ、変化を良しとしないのならば。
さあ急げ、おまえの道を、失いたくないのならば。
全てを、あの女の思うままにしたくないというのなら。