旅の歯車


022 : 宝石

「見てご覧なさい、この美しい輝きを! これこそ、この広大なる大地にまたとない唯一のものだとは思いませんか。しかし奥様、あなたのようなお美しく高貴なお方が身につければ、この輝きもいっそう増すというもの。いかがでございましょう。けっして高い買い物ではありませんよ」
 少年はとある町の、やたらときらきら光る物のある店の中にいた。秒針の欠片も多少は光るので紛れ込んでいるのでは、と思って入ってきたが、どうやら見当違いだったようである。
 商品として飾られているのは様々な色に輝く「美しい」石ばかりだし、聞こえてくるのも店の主人がどこかの貴婦人へ、高額の宝石を買うように口説いている話し声だけだ。
 事実その店は貴金属や磨き上げられた宝石のみを捌く場所であり、店の中にいるのは絹の衣服に身を包んだ人々ばかりだった。本来ならば少年のような身なりをした者が入っていれば追い出されてしまうところだが、如何せん店主があの調子なのだからしょうがない。少年はそんなことを知りもせずに店を一通り眺めると、浮かない顔で店を出た。
 店を出て暫く行くと、一羽の小鳥が少年の肩にとまる。小鳥は加えていた木の実を少年に押しつけると、軽やかに一声鳴いた。
 少年は実を見て呟く。
「僕には、宝石よりもこっちのほうがよほど綺麗に見えるけどなぁ」

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