旅の歯車


020 : 花束

「これ、あげるわ」
 突然目の前へ差し出された花束に、少年は一瞬驚いた。
「このあたりでは珍しい花なの。綺麗でしょう?」
「あ……。ありがとう」
 少年は今、北へと向かう列車の中にいる。
 少年が困惑の表情を浮かべていると、少女はさっさとその向かいの席へ陣取った。
「退屈そうな顔をしてたから。花はお嫌い?」
「そんなことは、ないんだけど……少し、驚いて」
「そう。なら良かったわ。ただのお節介にならなくて。……あなたは、どこまで?」
 少年は、目的の駅の名前を述べた。
「北の果て? 奇遇ね、私もそこへ行くの。北の果てへは行ったことがある?」
「いや、今回が初めて」
「そう、私もだわ。……残念。町の様子が聞けると思ったのに」
 少女が、少年に旅の理由を聞く。少年はただ「捜し物をしに」とだけ答えて、逆に聞き返した。
「女の子が、どうしてわざわざ一人で北の果てへ?」
「大した理由はないの。だからよけいに腹が立つわ。……急に、顔も知らない親戚から、こっちに引っ越せって手紙が来たの。両親の代わりに面倒を見てくれるって……今更よ? 私が孤児になったのはもう三年も前なのに。おかげで、やっと形ができた店も売ることになっちゃったし」
「店を持っていたの?」
「そう。花屋。それで……それが、最後につくった花束。私から、私の旅へ向けた贈り物にしようと思ったの」
 そう言って、少女は少年の手の中の花束を、愛しげに見つめた。
「北にも花は咲くのかしら? 私、またお店をもてるかしら? 不安なの。不安だらけだわ」
 聞いて少年は頷いた。それから微笑む。
「きっと、北には北の花が咲く。見たこともない花が見られるかも知れない。でも、不安は不安の花しか咲かせないよ」
 少年は言った。少女も微笑んで、それから、
「そうね。……あなたって、意外と口説き上手なのね」
 と、からかった。

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