019 : 後継者
「俺にはお前に作ってやれる道がある。お前に仕事を与えることが出来る。……生きていたいか?」
彼は言った。だから、頷いた。
「私だけはあなたの味方。あなたを愛してあげることができる。いらっしゃい、坊や――」
彼女は言った。だから、手を引かれていった。
大時計の守護者は、その日、青空を眺めて目を瞑った。
気持ちのいい原っぱ。人もいなければ馬もいない。風に草木がさざめきあい、少年は大きく息を吸う。
これからどうなるのだろう。漠然とした不安が渦を巻く。けれど少年は信じていた。
きっと取り戻せる。いつの日か、またあの場所に帰れると。
黒衣の破壊者は、その日の夕日を見てため息をついた。
日が世界を赤く染め上げて、燃えるような町に夜の明かりが灯り始める。世界は意外に美しい。
ここまで来たのだ、もう、退けない。わかっていた事ながら少し、身がすくんだ。
けれど自分は捨て身になれる。もう帰る場所も、この力を託してくれたあの人もこの世界にはないのだから。
――物語が、始まった。