002 : 荒れた大地
少年が二十年ぶりに降り立った地上は、少年が最後に見た惨劇の、あの風景からただ血だけをぬぐい去ったかのように、人の温かみも、生命の清々しさもなく、ただ踏み荒らされた地面の所々に、時たま申し訳程度に葉の長い草が生えているだけだった。
その草すらもが色を忘れたかのように真っ白で、ただ土埃に揺られて少し黒ずんでいる。この葉の名前がいったい何なのか、少年は知っているはずだった。それがわかったから、それを見て、触れて、ほんの少し考えた。
これがなんなのかを思い出せたら、自分が一体、この世界の何だったのかを知ることができる気がしたのだ。
しかし一向に、なんの言葉も浮かんでは来ない。少年は寂しげに苦笑すると、再び荒野を歩き出した。
(ようやく自分の居場所を、自分の仕事を、自分のするべき事を見つけたと思ったのに……。僕はまた、こうして荒野に放り出されるのか)
なぜこうも彷徨うのか。何故こんなにも、この荒れ果てた景色が懐かしいのか、狂おしいほどに美しく見えるのか。
めぐりめぐってここへ帰ってきた。めぐりめぐって、ここへ帰ってくる。
これが逆らえない運命なのだとしたら。
少年は考えた。そしてもし、ここに来てもなお進むべき道が見つからなかったのなら……。おそらく少年はそこで為す術もなく、果てていたのだろう。
この地に覆い被さり、この地の塵となり、この地に抱かれ、消えていったはずだ。
しかし少年はふと、白草の根本に落ちた物を見つけた。きらきらと輝く、小さく冷たい何かの欠片。少年は指先で恐る恐るそれをつまみ上げ、自分の鼓動の脈打つのを感じていた。
これは、――道だ。
どうしたわけだろう。目の前には道がある。この光こそがまさしく、あの針の欠片ではあるまいか。この針、いずれは世界を再び貫き止めることになるだろう、この針の欠片こそが、彼をここへ呼びよせたのだ。
(この世界の、何か大きな力が――再び僕に、道を与えてくれたんだ)
昔、確かに先代が言っていた。あれは絶対の物だから、なくてはならない物だから、けっして壊れない、けっして壊してはいけないと。
あれはまだ壊れていないのだ。だからこうして、この小さな欠片を手に乗せるだけでこんなにも心が軽い。
これこそが、自分の、この世界で生きる意義なのだとしたら。
少年は、今一度歩みを進め始めた。
それが例え、三度この地へ帰るための道なのだとしても。
少年は進むことに迷いはしなかった。迷う、必要もなかった。
この、荒れ果てた大地で。