ザクロと猫と指切りげんまん


――オハチ カズイキ コッペツ チャリデコ。
みんな揃ってエーヤガイ、エーヤガイ。
ザクロの木の花ウシャガッタ――
 鞠がはねる。私はそれを目で追いながら、私に身を寄せている子猫をくすぐった。子猫が暖かい日差しを受けてあくびをすると、首元で、涼しげに小鈴がちりちり鳴った。私が体を伸ばし、立ち上がると、やはり私の首元でも鈴が鳴った。
「だめだよ、トラ! ちゃんと赤ちゃん、守ってあげなきゃ」
 声と共に、今まで楽しそうにはねていた鞠が、不機嫌そうに転がった。かわりに、今まで鞠と仲良くやっていた人間の少女が、ふくれっ面をして駆けてくる。
「お母さんになったんだから、赤ちゃんを放っていっちゃだめよ」
 どうやらこの女の子は、私が子猫からはなれようとしたことが気にくわないらしい。
 そんなことを言ったって、私もたまには疲れるのだよ、お転婆ちゃん。私は心中呟いた。
 尾の先まで神経を行き届かせた、あくびをする。私の子供を抱きかかえた少女を一瞥して、私は歌い始めた。ひげで気持ちよく、リズムを取る。
 お転婆、年寄り、屁理屈屋、道化者。みんな揃って良いじゃない、良いじゃない。ザクロの木の花、咲き終えた。
 ザクロの花が咲き終えて、今は実の出来る季節になった。さがせば赤い萎れた花の近くに、土色の実が出来はじめている。
 知っているかい、お転婆ちゃん。あの実の中身が、どうなっているか。
 知っているかい、お転婆ちゃん。私のこの何気なく見える心も、実はあの素っ気ない木の実のように、花の色より濃い赤の、命の強さを感じされるように、情熱的なあの色の、あんな気持ちを隠しているのだよ。
「トラ、赤ちゃんのこと、大事にしてあげてね。この子まで私みたいに、お母さんと会えなくなっちゃったら――悲しいもの」
 少女は言う。わたしはあくまでそっけなく、しかし首の鈴がちりんと暖かい音をたてるよう、少女の方を見てやった。
 安心おしよ、大丈夫。こんなふうに見える私だって、子供のことは可愛くて仕方がないのだから。
「約束しましょ、ゆびきりげんまんよ」
 少女は私の尾に、ゆるく指を絡ませた。
「ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。指きった」
 もうじき、ザクロの実が熟す。
 見てご覧なさい、お転婆ちゃん。あの無愛想な木の実の中の、生々しいほど赤い、真の実の顔を。
2004

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