ちびのポン


 あるおうちに、小さなロボットの男の子がいました。その子の名前は『ポン』といいます。ポンはミノル君という人間の男の子のお友だちになるために、工場からやってきた子守用のロボットでした。
「ポン、ミノルと仲良くしてあげてね」
 ミノル君のお母さんに頼まれたその日から、ポンは毎日ミノル君のお世話をしました。おもちゃを使ってあやしたり、やんちゃをして怪我したミノル君のてあてをしたり……。二人はとっても仲良しでした。よく、一緒にキャッチボールをしたりもしました。
 けれど小学校にあがってからというもの、ミノル君はすっかり変わってしまいました。ポンのことを、『ポンコツのポン』なんて呼ぶようになったのです。
 
「ポンみたいに古いロボット、誰のおうちにだっていないよ。イマドキのロボットはみんな人間みたいに歩くのに、ポンの足はタイヤがついているだけでしょ。ちびだし、目だって懐中電灯みたい。……かっこわるいなぁ」
 そう言って、ミノル君はポンと遊んでくれなくなりました。その代わり、お友だちのおうちによく遊びに行くようになりました。
 
 ポンはそんなミノル君の後ろ姿を、いつも寂しく見送っていました。
 ミノル君に人間のお友だちができるのは、ポンにとっては嬉しいことでもありました。そうして帰ってきたミノル君が、ミノル君のお父さんやお母さんに向かって楽しそうに、学校やお友だちの話をしているのを聞くのも大好きでした。
 けれど、ある日お買い物をまかされたポンは、しょんぼりと肩を落として歩いていました。ふと見れば、ポンと同じようにお買い物をまかされ、あたりを歩くロボット達はみんな、いつかミノル君が言っていたようにすらりと背の高い、『かっこいい』ロボットばかりだったのです。
 
 ポンのようにタイヤで歩くロボットは、誰一人としていませんでした。懐中電灯のような目をしたロボットだって、他にはちっとも見つかりません。
 だけど本当にポンを悲しませたのは、お店の窓に映ったポン自身の姿でした。そこに映ったポンの姿は、ミノル君が赤ちゃんの頃と少しも変わらなかったのです。
 あいかわらずのちびでした。そして時代遅れでした。変わったところがあるとすれば、それはただ、『古びた』ということだけだったのです。
(もしぼくが、人間の男の子みたいに――ミノル君のように、成長できるロボットだったなら。ただ古くなるだけじゃなく、『かっこいい』ロボットに変わっていけたなら……。そうしたらぼくは今もまだ、ミノル君のお友だちでいられたのかな)
 そんなことを考えながら、ポンはミノル君の大好きな、カレーの材料を買って家に帰りました。
 
 その日、ミノル君がおうちに帰ってきたのは、夕方すぎのことでした。
 ポンは「おかえり」を言おうとしてミノル君の顔を見上げ、おどろきました。うつむいたミノル君が、立ちすくんだままぽろぽろと、悔しそうに涙を流していたのです。
「どうしたの」とのぞき込んだポンが尋ねても、ミノル君は答えませんでした。けれど突然ポンを抱きしめて、わあわあと泣きながら、こんなことを言いました。
「ポンはポンコツなんかじゃないよ。ポンは、僕の友だちだよ、――」
 
 後から聞いた話によれば、この日、ミノル君はお友だちにポンのことを馬鹿にされて、怒ってケンカをしたのだそうです。足なんかなくても、どんなに古びていても、ポンは最高のロボットなんだと、そういって怒ったのだそうです。
 
「ミノル君はポンのこと、ポンコツだっていつも言うのに」
 からかうようにポンが言うと、ミノル君はほっぺたを赤らめて、「他の人に言われるのは、なんだかとても嫌だったんだもの。……でも、僕ももう言わないよ。ごめんね、ポン」と照れくさそうに笑いました。
 
 その数日後、ポンはミノル君と一緒に、キャッチボールをしに出かけました。ミノル君と仲直りした、お友だちも一緒です。
(この子達もきっとどんどん、大人になっていくんだろうな)
 ミノル君や、そのたくさんのお友だちと一緒に遊びながら、ポンはそんなふうに考えました。けれど同時に、こうも思うのです。
(ぼく、『ちびのポン』のままでもいいな。だってぼくが人間の子のようにどんどん大きくなっていたら、うつむいて泣くミノル君の涙に、気づけなかったかもしれないもの)
 ちびのポンだからこそ、気づいたのです。
 
 ポンはにこりと笑って胸を張り、人間の友だちへ向かってボールを返すのでした。
2010/10/27

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