強い、風の吹く夜のことである。
 たなびく雲は忙しなく流れ、月は地上にモールス信号でも送るかのように、顔を出してはまた隠れ、隠れてはまた町を照らした。
 思えば、それは確かに私たちに向けられたメッセージであった。平凡な日々を暮らす私たちに旅立ちを促す、誘いの灯りであったのだ。
「ねえ。ちょっとこれから遊ぼうか」
 にやりと笑って私が言うと、象太はきょとんとした顔で、怪訝そうに瞬きをする。
 明かりの消えた室内に、宿る光は月明かりだけ。思い切って窓を開け放つと、一陣の風が唸り声を上げ、部屋のカーテンをめくりあげる。それがまるで旗の揺らめく様子に見えて、私はなんだか楽しくなった。
「さあ参りましょう、象の国の王子様。国の誰もが、あなたのことを待っています」
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